最新のDSM-5分類では発達障害は「神経発達症」という表現に変更されています

障害ではなく、個性として捉える視点

 当院において発達障害の話をするときは、必ず以下の説明をしてから患者さんにお話ししています。

『ぼくはそもそも発達障害という用語の響きに違和感を持っていて、なるべく発達個性と呼ぶようにしています。こうした方々の特徴は脳の神経ネットワークの働きに極端な偏りが生じやすいという共通基盤があり、その実態は障害というよりも、個性として見なすべきものです。しかも天才的な才能を秘めていたり、目に見えないヒーリングパワーを持っていたりすることが多いんです』

 目の前の患者さんが発達障害である場合はもちんのこと、その家族や関係する人に可能性がある場合においても、必ずこの話をしてから、具体的なアドバイスをするようにしています。

 今という時代、発達個性の方々がどのような脳恒常性機能不全(脳疲労)を抱えて、どんな症状を発症して、どんな救いがもたらされるのか、その実例についてはこちらのページで紹介しています。

発達障害は爆発的に増えている!?

 分かりやすい自閉症であれば、家族が気づいて相応の対応につながることが多いわけですが、アスペルガー(最新の分類概念ではASDに統合済み)に代表される広汎性発達障害や学習障害の一部は本人も家族も気づけないまま成人し、大学に入ってからあるいは社会に出てから周囲の環境に適応できずに苦しんでいる方が大勢いらっしゃいます。

最新のDSM-5では「神経発達症」という診断名に変更されています

 

 心療内科の看板を掲げる医療機関が増えたこと、上記のように診断名が統合されたこと、テレビ(NHK「発達障害って何だろう?」)で紹介されたこと等々によってラベリングされるケースが増えたという見方がある一方、実際にその母数自体(発達障害の傾向を持つ人)が増えていると主張する研究者もいます。

 当院も同じ見解であり、昭和の時代に比べてそうした人々は確実に増えていると感じています。より厳密に言えば、人口に占める割合が増えているという解釈です。昭和時代にはそもそも発達障害という概念がなかったのでデータの比較はできませんが、平成に入ってから徐々に増え始めていったという印象、肌で感じるものが私にはあります。

 なぜそのような感覚を持ち合わせていたのか。私(当院院長)の生い立ちと医療者としての立ち位置にその淵源があります。

医師によって判断が分かれることがあるが、自身が発達個性である医療者にしか見えない世界がある

 日本の医療は行政の次元をはるかに超える縦割りシステムの象徴であり、専門性や分化の深度が極まっています。さらに欧米では当たり前の家庭医や総合診療医が日本ではまだまだ不足しています。 

 専門性を重んじて横断的な幅広い知識を持たない医療者が多い日本では、発達個性の傾向を持つ人々が様々な症状を抱えて医療機関を受診しても、医療者に気づいてもらえるケースは僅少であり、境界例(グレーゾーン)の方は尚更のこと…。

 精神科や心療内科においてさえも、発達障害に対する判断は医師によって分かれるケースがあります。

 私はかつて整形外科に勤務していたとき、運動器の症状を訴える患者さんの中に発達個性の問題が隠れている症例に数多く遭遇してきました。しかし当時はそのことに気づける医療スタッフは私くらいで、そうした情報を共有できる医療者は皆無でした。

 なぜ気づくことができたのか?何を隠そう私自身が発達個性であり、発達個性であるが故の生きづらさを克服するための試行錯誤をずっと続けてきたという過去があるからです。

 もちろん発達個性の傾向を持つ医療者のすべてが、私と同じように“気づける”わけではありません。私自身の特殊な生い立ち(病院の中で生まれ育ったという環境)がベースにあって、なおかつ学生時代から心理学への興味を強く持っていたという要因が重なることで、たまたまそのような慧眼が宿ったのだろうと推考されます。

自身の発達個性と向き合った過去や傾聴カウンセリングに行き着いた経緯等についてこちらのブログ「病院で生まれ育った?」で紹介しています(3篇完結シリーズです)。

発達個性は脳恒常性機能不全(脳疲労)を起こしやすい

 日本では脳恒常性機能不全(脳疲労)については様々な視点で語られていますが、当院が所属する日本認知科学統合アプローチ(COSIA)学会では「脳代謝バランスの偏重および失調」という視点を重視しています。脳は人体臓器の中でも際立って酸素欠乏に弱い組織であるため、独自のホメオスタシス(恒常性維持)を有しており(同学会がブレノスタシスと命名)、脳内の血流は厳格に調整されています

 このシステムが正常に働いてさえいれば、脳局所の興奮や他局所の機能低下といった血流バランスの異常が起きても、自律的な回復が促されて恒常性が維持されます(=ブレノスタシス)。

 ところが、発達個性においてはふだんから偏った脳の使い方をしてしまう傾向(脳局所の興奮が起こりやすい)があり、ブレノスタシスに過度な負担がかかり、結果的に代謝バランスの偏りを是正できない状態に陥ることがあるのです。日本認知科学統合アプローチ(COSIA)学会ではこの状態を脳恒常性機能不全(脳疲労)と定義しています。

 下の画像は脳代謝バランスの偏重(脳恒常性機能不全(脳疲労))が起きている具体例です。こうしたリスクが発達個性ではより高まりやすいのです。

 もっとも脳恒常性機能不全(脳疲労)は発達個性に限った話ではなく、現代人の多くがそのリスクを負っています。地球環境の激変(気候変動や自然災害の数々)やITに象徴される情報化社会の急激な変化が背景にあると、私は考えています。天気痛をはじめ気象病の根底には脳恒常性機能不全(脳疲労)があるという視点です。

 人間が環境の変化を感じる力は、心理学の分野において「環境感受性」と呼ばれます。近年生まれつき環境感受性の強い人が国や人種に関係なく一定の割合で存在していることが分かってきました(5人に1人程度)。このような方々はHSP(Highly Sensitive Person)やエンパスなどと呼ばれることがあります。

 こうした方々も脳恒常性機能不全(脳疲労)のリスクが高いことが分かっており、これからの医療は脳恒常性機能不全(脳疲労)という視点抜きでは本質的な病像に迫れないのではないかというのが当院の見方なのです。

 発達個性の実例(当院での症例)についてはこちらのページで詳しく紹介しています。成人するまで発達個性であることがずっと見逃され続け、高校卒業後にようやくその問題が顕在化し、当院への受診をきっかけにして「心療内科への紹介➡大学病院での精密検査➡正式な診断➡障害認定(障害者手帳の交付)➡BReIN継続による症状改善」に至った経緯について紹介しています。是非ご一読ください。 


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