≪玉川温泉シリーズ目次≫
[1]B爺M
[2]宇宙からのサイン
[3]書籍150冊分のコピー
[4]赤いブツブツ
[5]宇宙からのサイン再び
[6]宇宙からの使者



玉川滞在も残すはあと一日。
今年の玉川温泉での“断食・湯治・読書”は
たいへん有意義なものとなり、大満足。

昨年ここに始まった150冊コピープロジェクト。
その最後の12冊を携え…。

滞在初日から順調に読了を重ね、
そのフィナーレを飾った本が下の6冊でした。
すべて村上和雄氏(分子生物学者・筑波大学名誉教授)
の著作です。




久しぶりに訪れた“心ゆさぶられる本”との出会い。

今回の玉川再訪の意味は
氏の著作をじっくりと読ませるための時間だったのか
と思わせるほど。

皆さんにも是非おススメします。
私がこれまであらゆる場面で主張してきた、
病気の環境因説(心身環境因子論)。

同じことがこれらの本でも語られています。
何より氏の科学者としてのスタンスに共感を覚えます。

世の中には自分と同じことを考えている人がいるんだなあ。
でもこっちは無名の存在。
あっちは世界的な学者。

私のような人間が独りで吠え立てるよりも、
こういう人が言ってくれるほうが
よほど世の中へのインパクトがある。

けど、私も早く自分の本を出さねば…。
なんて思いを巡らせながら、ふと窓外に視線を移すと、
向かい側に見える断崖の雪面に残る野生動物の足跡が…。

さっきまでははっきりと見えていたのに、
降りしきる雪に覆われ、その輪郭がだいぶ薄れてる。

日もだいぶ陰ってきた。
今夜もこのまま降り続くのかな。
明日のチェックアウトは早めにしようか。

そんな他愛もないことを独り部屋の中で考えていた
まさにそのときでした。


突如として隣りの部屋から大きな声が。
しかもその声量がハンパないこと!
地響きのように腹の底まで響いてくる声質。

私はラジオDJのなかではジョンカビラ氏の声が大好きなのですが
それと同レベルか、あるいはそれ以上の声の通りの良さ。

そして、ときおり笑ったときの声は
まるでバリトンのオペラ歌手のよう。

夫婦連れ?なのか女性の声も聞こえてくる。
その会話の臨場感たるや、
部屋を仕切る壁がそこに本当にあるのかと疑いたくなるほど。

しかも、
まったく途切れることのない超ハイテンションな会話…。

昨日まではあんなに静かで、物音一つしなかったのに…。
よほど静かな客が泊まっていたのか?空き室だったのか?

それとも、この2人の声量が大きすぎるのか?


と、そこに夕方の湯あみをすませた家内がご帰還。
「雪すごくなってきたね」
「うん…、俺もひとっぷろ浴びてくるわ」

そして戻ってくると、部屋の中では家内が編み物中。
「隣り、うるさくなかったか?」
「最初はけっこう…ね」
「…今は静かだな」
「夕食にでも行ったんじゃない?私も食事行ってくるね」
「行ってらっしゃい」

⤵玉川温泉の食堂

断食中の私はこの食堂に入ることは一度もありませんでした。

家内が出ていったあとも部屋の中は静寂に包まれたまま…。
いつもの静けさが戻ってることにひとまず安堵。

隣りは寝ちゃったのか、入浴か、食事か、知らないけど、
とにかく今この静けさにはホッとする。

明日の予定でも考えるとするか。


明朝チェックアウト後、
田沢湖駅に着いてから新幹線が出るまでけっこう時間があるな。
昨年同様、田沢湖まで足を伸ばして、
湖畔のレストランで美味しいものでも食べようか?

と言っても、断食明けの食事だからなあ…。
やっぱり自重して家まで我慢するか。

でも昨年、湖畔のレストランで食べた
豪華版のサラダ美味しかったよなあ。

けど、せっかく秋田に来たんだから“きりたんぽ鍋”も外せないなあ。

などと、良からぬことを考えながら、観光ガイドをパラパラ。

私はこれまで幾度となく断食(1日断食または1週間断食)に
チャレンジしてきましたが、
実はただの一度も正しい復食に成功したことがないんです。


断食終了時は、おかゆなどの消化の良いものから始めて、
数日をかけて徐々に元の食事に戻していく必要があるのですが、
毎回、食欲の反動がおこり、
セーブが効かないまま食べてしまうんです。


私は甲田式の断食をしていますが、
甲田先生いわく
「断食しても復食で失敗したら、断食の意味がなくなる」
とのこと。

昨年玉川から大宮に戻ったときなどは、
あろうことか
駅ビルのなかでカルボナーラを食べてしまうという暴挙に。

私にとって、断食の鬼門はまさしく“復食”にあると言えます。


さてさて、1日を締めくくる夜の湯あみをしたあと、
床に就いたのが21時半。

幸い隣りは静か。しめしめ、今のうちに寝てしまおう。

……そのわずか30分後、
静寂を切り裂くバリトン爆弾炸裂!
睡眠はいとも簡単に破られ…。

「○×△…」「○×△□…」…ジョンカビラ氏降臨!
うおー!来たー!
ここから世にも恐ろしい深夜劇場が
幕を切って落とされたのでした。

夕方と違って、静まり返っている夜の館内。


その響き方は尋常でなく…。
言葉の詳細は聞き取れないものの、
感情の抑揚、言葉のイントネーションなどは完璧に伝わってくる。

1時間経過。その勢いはまったく変わらず。

2時間経過。おいおい、もういい加減にしようよ。

3時間経過。うそだろー。信じられない。
いったいどういう体力してんだ?
こんなに長くしゃべり続けられるっていうのも、
逆にすごいな。いやいや、感心してる場合じゃない。

4時間経過。他の部屋の客が壁を叩いてる。
そりゃそうだろ。我慢にもほどがあるぞ。

5時間経過。さて、ついに私も臨界に達し…。
アクションをおこすことに決定。

ただし、そこにはいくつか選択肢があるので、
どれにしようか、まず考えることに。


第1案は隣りのドアをノックして冷静に平身低頭お願いする。

第2案はフロントに行って従業員のほうから注意していただく。

第3案は今ここで「静かにしろー」と絶叫する。

第4案は新聞の地方欄の片隅に載る程度の事件の当事者になる
(殴り込みをかけて乱闘…)。

第5案は隣人とお友達になって一緒に朝まで語り合う。


ほかにもいろいろ浮かんだのですが、
それぞれに一長一短があって、なかなか一本に絞れない。

そもそも隣りの男の素性が気になる。
堅気なのかどうかという問題もある。
私の勘ではたぶん堅気だ。そっち筋の人物ではない。

隣りの男は何かに対して強い不満を抱え、怒りが収まらない様子。

会社の上司か、取引先か、親類縁者の世話役か、
相手がどういう者かは分からないが、
とにかく何かの対応に対して
「それはおかしいだろ」
みたいなことを延々と愚痴っている。

途中で男が疲れて口をつぐむと、
女がまた一言二言何か言う。

すると、その言葉に煽られて
また怒りのスイッチが入る。その繰り返し。

どうやら女はそういう流れで愚痴っぽくしゃべり続ける男を
見るのが好きなタイプらしい。

これはどう考えても夫婦の会話じゃないだろ。

だいいち旅先の旅館で一睡もせず一晩中
こんなに盛り上がって話し続ける夫婦が世の中にいるか?

それにしてもここは観光ホテルじゃないぞ。


宴会場もカラオケもない。
あくまでも湯治のための温泉施設。


ただ、正月なので、
観光客が紛れ込むケースは十分あり得る。

私が察するに、スナックのママとその常連?
両者ともに独身でないなら不倫旅行ということになるが?

しかし一晩中話し込む不倫カップルっていうのも?
ふつうは違う展開だよな?

こちらとしても行動をおこす前に、
事前準備としてあらかじめ考えておかなくてはならない要素は
たくさんあるわけで…。


実は断食をすると感覚が研ぎ澄まされて、
通常とはまったく違う五感力が目覚めるんです。

この日は断食7日目。
感受性はマックスに達してる。

聴覚や嗅覚などの感覚が鋭敏になることはもちろん、
いわゆる第六感や直感力も強くなる。

私の場合、思考力も飛躍的に強まります。
自分で言うのもなんですが、
怖いほどに頭が切れてくるんです。

このときは可能性の限りを尽くして、
あらゆる状況のシュミレーションを完璧にこなし、
結局双方にとってどれもベストな結果に結びつかない
という結論に達しました。

そして唯一残された最後の選択肢が
寝るのを諦める
だったのです。


もちろんこの“隣人爆弾”も
宇宙からのサインのひとつであることに変わりないわけで、
その意味も全力で考えました。

ただ、それに関しては最後まで答えが出ず…。
まったく意味が分からないまま…時が過ぎ…、
時計を見ると4時半。

すると、隣りの男もそろそろ力尽きたのか、
次第に口数が減り…。

頼む。もう何も言うな、話しかけるな、けしかけるな、
と女に対して祈るような気持ち。

その思いが通じたのか、まず女のほうがダウンしたようで、
そして男のほうも…。

しかーし、このあと聞こえてきたのは、
地響きのような恐ろしいほど大きなイビキ。

怪獣かお前は!
半端じゃないぞ、このイビキのうるささは。

睡眠時無呼吸症候群の検査を受けたほうがいいぞ。
もう支離滅裂なツッコミを独りでするしかなくなった私も、
その思考力は急速に衰え…。

考える力は弱まったものの、
交感神経の興奮だけは収まらず、結局そのまま徹夜状態。

ほとんど一睡もできないまま朝を迎えたのでした。


昨日まですべてが順調で完璧だったのに、
最後の最後にこんな“大どんでん返し”が待っていようとは。

うっすらと朝陽が射しこむ部屋の片隅で、
壁に寄りかかりながら頭を抱える私の眼前には、
静かな寝息を立てている妻の寝顔。

きっと家内も眠れずに悶々と夜を明かしたんだろうなあ。
気の毒に。

やがて横になったまま目覚めた様子の家内に
「すごかったな。隣り」
と話しかけると、
俄かには信じがたいリアクションが。

「どうしたの?」
と聞き返してくるじゃありませんか。

へっ?うそでしょ?
ひょっとしてお前何も知らないの?

「どうしたのって、すっげーうるさかったじゃん。隣り…」
「???…うるさかったの?」
とキョトンとしてる。

さすがだ。お前はやっぱり侮れんわ。
このときばかりは家内の天然パワーの威力を再確認。

そうだった。忘れてた。
お前はちょっとやそっとの地震じゃ眼を覚まさないタイプだった。


それにしても、あの状況で熟睡か。
このときばかりは超天然系の家内を羨ましく思う一方、
自分の神経が細すぎるのかという自戒の念まで沸き起こり…。

断食7日目に徹夜を余儀なくされるという、
まったく予想だにしなかった結末を迎えた今年の玉川温泉。

なんともやりきれない思いでチェックアウトを済ませ、
雪上車とバスを乗り継いで田沢湖駅に到着。


バス内では終始うつらうつらと舟を漕ぎ続け、
降車後も頭はぼーっとしたまま。

昨日色々考えていた湖畔のレストランも、
それ以外の何軒かのランチ情報も、
すべてどうでもいい感じになってしまい、
駅前のお土産屋さんで時間を潰して新幹線に乗り込んだのでした。

電車内では気絶するように寝込んでしまい、
気がつくと大宮駅。

冷え切った我が家に戻り、家内におかゆを作ってもらい、
それを食べたとき、あまりの美味しさにびっくり。

うっ,うまい、うますぎるうう!

(しかも我が家のお米は自然栽培-農薬も肥料も使わない自然農法-)
こんなに美味しいものが世の中にあったのかというくらい、
感動の思いが込み上げてきて…。

すると、ひとすじの光が全身を貫いて、
固い氷を溶かすように全ての謎が解けたんです。

いつもだったら、
断食明けに何かしら味の濃いものが食べたくなってしまい、
昨年の玉川の帰りにいたってはパスタとケーキ。

私の断食歴において、
ただの一度もまともな復食ができなかった自分が、
ついに過ちを犯さないですんだ!

今回ついにまっとうな復食を果たすことができた!
こんなに美味しく感じたおかゆは生まれて初めてだ!

そうだったのか。
宇宙からのサインの意味はそういうことだったのか。

あの隣人は宇宙がよこした究極の使者だったんだ。
あの2人のおかげで、
断食のあとの食欲反動を抑えることに
ようやく成功することができた!

なんていうことだ。
宇宙に心から感謝。

そして隣人さん、本当にありがとうございました。
でも、あのイビキは異常ですよ。
食事の量を減らすか、さもなければ一度検査を受けて下さいね。


≪玉川温泉シリーズ目次≫
[1]B爺M
[2]宇宙からのサイン
[3]書籍150冊分のコピー
[4]赤いブツブツ
[5]宇宙からのサイン再び
[6]宇宙からの使者